ファーウェイが独自OSの投入を示唆 モバイルにおける独自OSの勝算
アメリカのトランプ大統領によるファーウェイ制裁ショックが広がっている。アメリカ企業とファーウェイとの取引を禁止されたために、Google, ARMなどのスマートフォン開発には欠かせない企業がファーウェイとの取引を中止した。日本でも、auやNTT Docomoがファーウェイ製の新機種予約を停止するなど影響は国内でも広がっている。人気端末を販売しているだけに、国内ユーザーの間でも心配の声が上がっているかもしれない。
そんな中、ファーウェイはアメリカに頼らずともスマートフォン事業を継続できる道を模索していると噂されている。GoogleのAndroidから脱却し独自OSを開発し既に商標登録もされている。といった報道もある。
真偽は定かではないが、ファーウェイが開発する独自OSは、どのようなOSになるのだろうか。また、そのOSはAndroidの代わりとなる勝算はあるのだろうか。
過去にもあった独自OSの流れ
AndroidやiOSの代替となるモバイルOSは開発されていたのか。実は、AndroidやiOSの他に独自のモバイルOSを開発した/されている例はいくつも存在する。途中でプロジェクトが中止になったOSもあれば、モバイルから戦略を転換したり、コミュニティによって開発が継承されたOSなど様々な岐路を辿っているが、どのOSもいまいちだ。
Firefox OS

このOSはその名の通りForefoxブラウザを開発してるMozila Foundationが中心となって開発を行っていたスマートフォン向けOSだ。最大の特徴はWebの技術を最大限に活用していることだ。
OSのコアとなるLinuxカーネルこそAndroidをベースとしているものの、その他のユーザーランドは全てWeb技術を前提に作られた全く新しいOSだった。
OSをJavaScriptで操作できるようにAPIを提供し、アプリはHTML5とJavaScriptだけで書けるようにできていた。
Firefox OSは、一時期 auがFx0というFirefox OS搭載スマートフォンを発売するなど日本でも注目を集めた。
しかし、MozilaはFirefox OSからの撤退を表明し現在はKai OSなどがフューチャーフォンに搭載された例があるのみである。
Ubuntu Touch

UbuntuというLinuxディストリビューションを知っているだろうか。普段、スマートフォンを使う限りは目にしない名前かもしれない。UbuntuはCanonicalが開発しているLinux OSの一種である。デスクトップOSとしてはWindows, macOSに並んでよく使われているOSと言っても過言ではないだろう。デスクトップ向けLinux OSを使っている人で知らない人はいないはずだ。
そんなUbuntuの開発元であるCanonicalもMobile OS市場に参入しようとしていた。それがUbuntu Touchである。
Ubuntu TouchはデスクトップUbuntuをベースにカーネルとUIをモバイルに最適化したOSである。また、コアはUbuntuであるためにデスクトップアプリが動作し、ディスプレイに繋ぐことでデスクトップPCとして使うこともできるなどユニークな機能を備えていた。
しかし、CanonicalはUbuntu Touchの開発を中止することを発表。現在は、コミュニティが独自に開発を継続している。
Tizen

TizenはLinux FoundationやSumsungに加え、日本のNTT Docomoなどが中心となって開発しているLinuxベースのモバイルOSである。Firefox OSのようにHTML5のWebアプリの他にC++によるネイティブアプリを作成することが可能。ただし、Androidなどの他OSアプリとの互換性はない。
一時期は第3のモバイルOSとも歌われていたが、SumsungがTizen OS搭載スマートフォンの開発中止を発表したりNTT DocomoがTizen OS搭載端末の発売を検討するも中止するなど雲行きはよくない。
戦略は2つ。新規か改良。そしてもう1つのキー
独自OSを開発する手段は二つある。一つは、完全に新規のOSを作ることだ。OSのコアになるカーネルはLinuxを用いようともアプリケーションの動く基盤であるAPIやUIシステムなどを完全に一から作ることで今までとは全く違った新しい機能を入れ既存のOSと差別化できる。
もう一つは、既存のOSを改良することで独自のOSを作ることだ。これは、既にあるAndroidなどをベースにUIシステムなどに改良を加え独自のOSに仕立て上げることを意味する。
では、ファーウェイが開発する新OSはどのような戦略を取るべきか。恐らく後者だろう。
独自OSを開発すると聞くと、今までのAndroidとは全く違ったものになるのではないかと思う方もいるかもしれないが、現実的にはGoogleサービスが使えないAndroidベースのOSになる可能性が高い。(取引が禁止されているのにAndroidを使えるのかという疑問に関しては後述する)
理由はいくつかあるが、一番大きな理由は完全な新規開発には、膨大な費用と期間がかかるからだ。モバイルOSの開発といっても簡単ではない。Androidは10年もの月日をかけて開発されてきたのだ。ファーウェイの技術力は高く、完全に作り直すことも可能ではあろうが、既に積み上げられてきたAndroidを捨てて一から作り直すのは合理的ではない。
もう一つの理由と同時に勝算のキーであるのは、OSの機能よりも使えるアプリの方が重要であるということだ。
完全に新規で作ると、今まで使えていたAndroidアプリを動作させることができなくなる。つまり、NetflixやInstagram, Twitterなどのアプリは利用できなくなるのだ。そうなると消費者にとってはあまり嬉しくないだろう。Firefox OSやUbuntu TouchなどのOSが流行らないのもこれに原因があると考えられる。
「アプリ自体を作り直せば良いのではないか」と考えるかもしれないが、これも中々実現しない。全く違ったOSにアプリを移植する作業は簡単ではないのだ。また、それだけのコストをかけるには売れる見込みが必要でありシェアの小さな新規OSにそれを期待するのは難しい。
Huaweiの独自OSはどのような戦略で行くか
上記のような理由からファーウェイが開発するOSはAndroidベースになる可能性が高い。恐らく、既存のAndroidに搭載しているEMUIを搭載しアプリストアやGoogle Map, CalendarといったGoogleアプリをファーウェイ独自のものに置き換えていくのだろう。
しかし、取引が禁止されたGoogleはHuaweiにAndroidを提供できるのだろうかと言う疑問が残る。
取引停止のAndroidを利用できるか

結論から言うと、Androidは利用が可能だ。AndroidはAOSP(Android Open Source Project)で開発されており、つまりオープンソースである故、誰でも自由に使うことができるのである。では、Googleは何の取引を停止するのだろうか。それは、Google PlayをはじめとするAndroid向けのGoogleサービスの利用ライセンスである。
独自アプリストアと独自サービスでGoogleに挑む
Androidはオープンソースで利用可能なことや既にEMUIという非常に完成度の高いUIがあることから、Androidは引き続きベースとしていくであろう。従って、今までのAndroidアプリを引き続き新OSでも動作させることができるであろう。
しかし、Google Playが使えないだけではなく, Google Map, YouTube, Gmail, Google Driveといったサービスが利用できなくなる。これはユーザーにとってはかなりの痛手だ。Google MapやGmailなどは日常的に欠かせないと言う人も多いのではないだろうか。
恐らく、ファーウェイはこれらの代わりとなるサービスを新OSに搭載するだろう。事実、既にファーウェイ独自のApp Galleryというアプリストアは存在している。
LINEやTwitterなどの主要アプリ他にGoogle ChromeなどのGoogle製品もなぜか表示されるらしい。アプリ数はGoogle Playが圧倒的であるが、今後のファーウェイ の努力次第ではラインナップは更に増えるだろう。また、デベロッパーにとってもファーウェイ 製端末のユーザーは無視できる数ではない。
ただ、一つの懸念は、ファーウェイ がGoogleの代わりになるような完成度の高いサービスを生み出せるかだ。Google MapやGmailの代わりとなるものを新OSに搭載できるかが鍵となる。Googleと同列、もしくは上回るようなサービスを開発するのは困難であろう。しかし、不可能と言うわけではない。
過去にAppleはiOSのマップアプリをGoogle Mapから独自のものに変更した。

発表当初は、「ガンダムパチンコ駅」なるものが表示されるなど精度が非常に悪くAppleが謝罪する異例の自体となったが、現在はそのようなこともなくGoogle Mapに引けを足らない。
こういったことから、サービス次第ではファーウェイ の独自OSに勝算はあると考えられる。EMUIの完成度を見ても, Android AOSPを利用できることを考えてもAppleのiOSのような製品と一体となった完成度の高いOS作成は可能だろう。今後の動向が楽しみだ。